「AAC=拡大代替コミュニケーション」と訳されます。
技術の進歩に伴い多くの機器も紹介されていますが、基本は文字盤にあると思っています。喉頭摘出者や舌癌のオペをした方では、身体(上肢)機能が保たれているので、筆談または文字盤の指差しによって、十分とはいかないまでもコミュニケーションを図れます。
しかしALS(筋萎縮性側索硬化症)などの四肢の麻痺と発声の障害を伴う方の コミュニケーションをどう確保するのか、しばしば出会ってきた問題です。
もっとも簡便な手段である透明文字盤の導入について、まとめます。それぞれの方が、試行錯誤しながら使っていることと思います。そのやり方を教えていただければ・・・。
私自身、何度となく拒否や失敗の事例を経験しており、アプローチについても不十分なところがあると思うので、ご指摘いただければ幸いです。
反応
目的::発動性の確認
方法::声かけに応じたアイ・コンタクト。開閉眼などの簡単な指示に従う。
不可::コミュニケーションの前提となる覚醒を促すために、様々な刺激を入れる
視線
目的::文字盤の入力方法の検討
方法::(指示、または模倣にて)開眼。閉眼。追視。
不可::視線入力以外の方法(読み上げによるスキャン方式など)を検討
言語理解
目的::言語障害の有無
方法::「目を閉じて」などの口頭指示を出す。
2〜4枚の絵カードや、かな文字カードを提示し、言ったカードの方向を見てもらう。
不可::音声ではなく、同じ絵や文字を提示して、マッチングで同じものを選べるかどうか。
それでも駄目なときは、文字盤の使用自体を再検討。
<作成>
アクリル板などの透明な板(大きさはB4〜A3程度)に下図のように、マジックで書き込む(図の縮尺は適当です)。
罫線は入れない人も多いようですが、入れたほうが視線の位置がつかみやすい気がします。
文字は黒では見づらい、との報告もあります。他の色で試したことないので、よく分かりません。
図1:50音文字盤 図2:メッセージボード
<話し手と読み手の位置>
両手で透明文字盤を持ち、お互いの顔が正面で見合える位置に読み手は構えます。
文字盤の角度は目と目をつないだ直線に対して90度とし、動かすときにもその角度のまま動かします。
距離は話し手から30センチぐらいの位置が見やすいようですが、盤のサイズや視力などによって、調整してください。
また、人には利き目というものがあるように思います。話し手も読み手も、それぞれ目があったと感じやすい側というのがあると思うので、うまくいかないときにはそんなことも意識してみてください。
その他、部屋の光線の具合などにも影響されます。
<基本的な使用法>
@ A B
目的の文字が緑色の位置にあるとします。
文字盤を出したときに。相手の目が@のように左上を見ているとき、文字盤を右下方向に動かします。すると、目的の文字を通り越し右下を見るようになります。このようにしてずらしていくと、Bのように目的の文字を通して目と目が合います。
読み手はその文字が目的の文字かどうかを声に出して確認し、話し手はまぶたを閉じるなどの方法で「Yes」と答えて、次の文字に移ります。
<練習法>
1.Yes/No反応の練習
Yesなら閉眼1回、Noなら閉眼2回などと設定(それぞれが行いやすい方法。口を開く、などでも可)。簡単なYes/Noの質問をして、反応を見ます。
2.50音文字盤の練習@
読み手が指定した文字を通して視線を合わす練習。「つ」などと、一文字ずつ指定して話し手にその文字を見てもらい、視線が合うことなどを相互に確認します。
読み手が確認するまでは、視線をその文字から離さないことに注意を促します。
3.50音文字盤の練習A
読み手が指定した単語になるように、文字を順番に見てもらいます。その時に目指す文字を通して視線があったら、読み手は一文字毎に声に出して確認。話し手は正しければ、Yesの反応をします。続く2文字目では話し手はわざと間違った文字で確認し、No反応の練習もしておきます。
4.50音文字盤の練習B
ここまでできるようになれば、話し手の自由に選ぶ一文字から野菜の名前、しりとりなどの予想しやすい単語、自由な単語、フリートークへと難易度を上げて練習。
5.50音文字盤の練習C
STとの間で確実に会話ができるようになれば、それ以外の家族やスタッフとも練習を始めます。本人との練習前にはSTが話し手、家族が読み手となって、あらかじめ「読む」練習をしておくほうがスムーズに進行します。
<うまくいかない・・・>
練習しても、ちっとも分からない・使えないと感じた時には、次のようなことを確認。初心者の後輩や家族との練習の中で気づいたことなど。
1.「あ→い」「け→く」など、段を間違う。縦位置が合わない。
文字盤の操作や、相手との視線に注意を向けすぎて、手元がおろそかになっている可能性があります。上図の通り、視線を結んだ角度に対して直角に文字盤は提示することを忘れないでください。
特にベッドのギャッジアップを70度程度で行なう場合や地面からの2人の顔の高さが違う場合、読み手は文字盤を動かしているうちに自分の腕に対して直角に提示していることがあります。
2.「あ→か」「け→せ」など、行を間違う。横位置が合わない。
話し手の利き目を読み違えている可能性があります。
両目で文字を見ている場合、目が合うと感じる場所は2つあります。<基本的な使用法>のBの図では、左目は緑を通してあっていますが、右目は緑の隣の位置にあります。この場合利き目は左ですが、右目を中心に見てしまうと常に目的の文字から一文字分ずれることになります。
そのためには利き目の確認が必要です。確認するには、文字盤を一度早く動かしてずらし、相手の視線の動きをよく見てください。利き目が先に文字を発見して視線が固定、ほんの1テンポ遅れてもう一方の目が固定するような印象があります。この辺は感覚的なものなので、繰り返してみないと分かりにくいかも知れません。
3.目的の語を見つけるまでに時間がかかりすぎる
文字盤を動かすコツがあります。時間のかかる人は、最初から丁寧に文字盤を動かしすぎていると思います。
最初の段階では、文字盤をなるべく早く大きく動かします。視線の動きを大きくすることで、大体の場所を把握します。大体このあたり(4文字程度)と分かった後に、小さくゆっくりした動きで目的の文字を確認します。
また目的の文字に近づいて文字盤の動きが小さくなった場合、視線があまり動かないので「どっちか迷う」ということはよくあります。そのような時には一度大きくずらして、もう一度、視線の動きを作るほうが早い場合も多くあります。
<メッセージボードとの2枚使い>
1.全ての話を50音表で示していくのは、かなり労力がいります。その方との関係の中で特に必要度の高いものや、定型的な挨拶などはメッセージボード(図2)を別に作って、2枚のボードを切り替えながら使う方法もあります。
メッセージの内容は、話し手と相談しながら決め、切り替えのためのマーク(⇔)をそれぞれのボードに入れます。
2.会話を始める前に二つのボードを顔の左右に提示して、話し手は視線の向きで最初に使いたいボードを選びます。
3.50音またはメッセージで会話を始め、2つのボードを使い分けながら会話をします。
4.使っていくうちに、必要なメッセージは限られてくるので、より重要度の高いメッセージへと取捨選択していきます。
<その他のチェック>
運動機能
目的::スイッチ、機器導入の検討。Yes/Noの反応手段の検討。
方法::上下肢の粗大運動、指の開閉の程度、まぶたの動き、口腔器官、頚部の廻旋、などなど。
これらの動き、不随意運動の有無などについて確認します。
不可::脳波スイッチなどの検討(自分では試したことあります。患者さんでは使ったことないので、妥当性は?)
経時的変化
目的::スイッチ、機器導入の検討。Yes/Noの反応手段の検討。
方法::会話にかかる時間の変化や、疲労のしやすさの変化などに注意します。
不可::低下してきた場合、コミュニケーション手段の再検討。