実際のスクリーニング・チャートの使用結果について、いくつかの分析を加えたいと思います。<1.摂食>
しかし、本チャートはあくまでもスクリーニングですので、これだけを使って食事の開始などをすべて判断しているわけではありません。
チャートによるスクリーニングで変化が見られれば、口腔器官や嚥下、高次脳機能についての精査を行い、その上で判断しています。
位置づけとしては、再評価を行う前の予備検査ととらえています。
なお、黄色いチャートは現行のVer.1、青系はVer.0です。それぞれ、軸の取り方や評価項目などが違っています。大まかなイメージとしてとらえてください。
上記2つのチャートは、同一症例の1ヶ月の変化です。
入院時はベッド上対応で、呼びかけに反応はあるものの、刺激がなくなるとすぐに傾眠してしまいました。また、声も弱々しく聞き返しを必要としていました。ただし嚥下反射は見られており、喉頭挙上の範囲やスピードに大きな障害は見られませんでした。摂食においては、覚醒の問題が大きいと思われました。
1ヵ月後、車椅子座位も可能となり、チャートでも見当識以外の軸が伸びています。反応があがったことが特に大きな変化で、自分から「食べたい」などの要求も見られるようになり、傾眠もなくなりました。
その後経口摂取に移行し、老健施設に戻られました。
<2.認知症の進行?>
・HDS−R:24点 ・HDS-R:22点(2ヵ月後)
2ヶ月間のパーキンソン病の方の変化です。
ディケアスタッフからは食べこぼしの増加やADLが落ちてきている、PTからは指示や指導がますます入らなくなったとの報告を受けていました。
STにおける口腔器官や構音、長谷川式の結果だけでは、食べこぼしやADL低下の原因は明確にできませんでした。
しかし基本動作や生活面の低下はチャート上では顕著であり、ST時の印象からもメンタルの低下は感じられ、このことがADL全般の低下につながっていると思われます。今後の経過を追う中で、変化の兆しを示すデータの一つとしてとらえています。
<3.失語?認知症?>
・失語症 ・失語症もあるが、主は認知症
2人の症例の比較です。
STに出てくるオーダーの中で、「コミュニケーション障害=失語症」というとらえ方をされていることも多いように思います。
しかし失語症もありますが、コミュニケーション不良を起こしている主の問題は認知症になっていることは、臨床上よく経験します。その差がどのように出てくるかということです。
失語症だけの場合、見当識などもカレンダーの併用、文字ヒントなどで情報を取ることは可能です。しかし認知症があると、ヒントも有効に使うことができないために、情報を取ることが困難です。
また危険管理などの側面にもかかわるため、生活指数なども成績が下がります。
<4.認知症の中で>
・主に記銘低下や見当識障害 ・徘徊傾向
2人の症例の比較です。
記銘力低下などが主症状な場合は、認知指数の部分だけがへこんだ形になります。
一方、徘徊傾向のある方の場合は、危険管理やトラブルに問題が起こりやすいため、右側に傾いた長方形になります。徘徊傾向のある他の数人でも、このような形になりがちでした。
同じ右に傾いた形であっても基本動作指数の低い場合には徘徊できず、問題行動が目立ちます。
<5.パーキンソン病On/Off>
・Onの状態 ・Offの状態
同一パーキンソン病患者の<On/Off>時の変化です。
特に基本動作・嚥下(構音)・コミュニケーションが顕著に低下していることが分かります。
変化に見合う対応が周囲に求められます。
<6.STと家族間での差>
・STによる評価 ・アンケートによる家族の評価
失語症患者に対してSTが評価を行い、同一内容をアンケートにして妻に記入していただきました。その比較です。
病院と異なりデイケアの場合、実際の訓練場面を見ていただいたり、家族に実際にお会いする機会が少なくなります。そこで、家族がどのような障害像を持っているかを確かめたく、アンケートの形でお願いしました。
見当識や生活などの指数についての大きな差は見られませんが、コミュニケーション、発声にかかわる口腔指数については大きな差が出ています。
適切なコミュニケーション方法や障害像について、お伝えしていく必要があると思われます。
<7.STとケア・スタッフでの差>
・STによる評価 ・ケア・スタッフの評価
失語症患者に対して、STと老健ケア・スタッフに評価をしてもらいました。
家族の場合と同じくコミュニケーション、口腔指数の成績がSTに比べて低く、見当識にいたっては実施不可、もしくは不良という答えになっています。構音障害の利用者で比較した場合には、特にSTとの差は見られませんでした。
失語症がある場合、ケア・スタッフと利用者との間でコミュニケーションがなされないために、運動機能以外にケア・スタッフの目が向かない可能性があります。
ヒントの出し方次第で、情報が取れることはSTの評価からも分かります。その方法を伝えていく必要があると思われます。
<8.STとグループホームでの差>
・STによる評価 ・グループホームの評価
グループホーム入居中の失語症患者に対する、STとスタッフでの評価です。<9.訓練終了に向けて>
コミュニケーションや認知面での差は見られませんが、生活指数で大きく差が出ています。ここには、2つの要因が考えられます。
リハビリ(ST)という場に来ることで、ご本人の意識も強まり、STが意欲面を高く評価している。
老健よりも各自の自主性が尊重されるグループホームの中で、自室にこもりがちである。その結果、意欲低下ととらえられたり、ご本人の危険管理能力などをスタッフがつかみきれない。
ホームからの連絡ノートからも日常での関わり方についての困惑がうかがえ、この差をつめることは、今後のST訓練における課題となっています。
発症後数年が経過。杖独歩、ADL自立、構音障害も軽度、送迎を用いて外来も一人で通院。リハ側では終了も見据えている方に対する、STと妻の評価です。
本チャートでは評価項目が少ないために、1点の差が大きく反映されます。ですが、ここまでの差が出るとは思っていませんでした・・・。
24時間の生活をともにしている妻との間で差が生じるのは当然ですが、これではとてもADL自立とは言えないかもしれません。基本動作の評価には差がないにもかかわらず、生活面での差が大きく出ています。
リハの終了について、なかなか承諾を得られない経験はSTに限らず多くの方が持っていることと思われます。
その原因の一つには、本人の能力や障害像に対する家族との認識の差があることを改めて知らされる事例でした。