兵を知る者は動いて迷わず、挙げて窮せず
(へいをしるものはうごいてまよわず、あげてきゅうせず)
 戦上手は敵、味方、地形の戦況をよく把握しているので、行動を始めてから迷うことがなく、戦になってからも苦境に立たされることがない、ということ。

 迷いや苦境がなぜ生じるか?
 事態の予測が不十分なために思わぬ事態が起こるからです。
 事態の予測をどうするか?
 充分な情報を集めることです。不確定要素があったとしても、その他の情報が揃っていれば、幾つかの予測に絞ることはできます。
 「彼を知り己を知れば〜」と同じく情報収集の重要性が述べられています。

 今の言語聴覚士という仕事を始めたばかりの頃。
 医師からリハビリ指示が出た後に、最初にすることはカルテのチェックです。
 いつ、どこで、どんな風に倒れたのか、個人情報、入院後の様子、カルテには多くの情報が入っています。
 最初はカルテのどこを見ればいいのかもよく分からず、一通り目を通したつもりで患者様に向かいました。
 しかし私がカルテで見ていたのは、主に病気の経過にまつわるところばかりで、仕事や趣味、家族のことなどは見ていただけできちんと読んではいなかったのです。
 そして会話の展開をイメージしないままに患者さんと向き合った結果は沈黙で、その時の気持ちは困惑でした。

 これらの失敗を重ねた結果、少しはまともな臨床家になれたかと思います。
 片手落ちな情報では、相手がこちらの予想と違う反応をしたときに、打つ手がなくなってうろたえます。
 その人の人間性の部分なども把握することで、「こういうこともあり得る」と考えることができ、「こう来たらこう出る」という余裕を生むことができます。

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