半側空間無視

半側空間無視とは?

脳卒中の病巣の反対側に存在するもの、刺激などに気づけない状態です。
「見えない」と言う事ではなく、「気づいていない。存在を認めない。」です。
臨床的には、左半側空間無視の方に会うことが多いです。

家族やスタッフからの訴えで多いのは、
「食卓の左側のお皿に手をつけない。」
「車椅子で進むときに、左側のものにぶつかっても気づかない。」
「まっすぐ進もうとしているのに、右によっていく。」
「顔がいつも右側を向いている。」などがあります。



まっすぐ進もう

<手続き>

準備:@床にテープなどで直線を引く。A左側の存在を無視・テープを見えないようにしてもらうために、顔は90度右向き、やや上向き気味でスタート地点に立ってもらう。

1:そのまままっすぐ歩いてもらう。
2:30から1までなるべく早く数えながら(逆唱)、早足でまっすぐ歩いてもらう。

<解説>

手続き1では、体性感覚や意識を向けることで、ゆっくり歩けば大きくずれることもなく、歩ける方が多くいます。
手続き2では、多くの場合右側にずれます(下図参照)。
ずれない場合は、視野の中に直線が入っている、逆唱が中途半端で歩行に集中している、などが考えられます。
左側の存在しない世界を体感してもらい、右に寄る理由を考えます。

健常な方では、目に入ったものを意識しないということは困難です。
そこで、顔を右に向けて見えない状態にしています(つまり、無視ではなく半盲です)。
それでも手続き1のように注意を振り向け、見えない直線の存在を意識化すれば、大きなずれは抑制できます。
手続き2の逆唱は、この歩行に対する注意の制限を目的にしています。
注意の余裕がなくなり、見えない部分の存在に意識が向かないことで、移動は自分のイメージとはずれてしまいます。
頭では理解していても、なかなか修正できない無視の世界が再現されています。

逆に言うと、半盲や視野狭窄があっても意識や注意を向けられれば、ある程度は視野制限の代償が可能になります。
「空間の存在は知っているが見えない半盲」と「空間が存在しない無視」の違いを確認するとともに、注意の問題にも目を向けていただきます。

歩行前    


介護スタッフの講習会で行いました。
5メートル程度の距離ですが、カウントしなくてもずれる人が全体の2割くらいいた印象です。
一方、カウントを入れて早足を促すと、全体の8割くらいがずれてくれました。
半側無視を持つ方が、車椅子などで(無視とは反対側の)右側の壁になぜぶつかるのか、体験することで納得いただけたように思います。


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