失語2

失語症とは?

一言で言ってしまえば、「ことば」の使用が障害された状態です。
家族の方やスタッフの方からは、「会話ができない。」「分かっていそうだけど、時々変。」などとよく言われます。
さらにことばの通じなさを重くとらえて「認知症になった。」などと言われる場合もありますが、根本的に違うものです。

ただし失語症はあくまでも総称であり、その障害のされ方によって大きく変わります。
たとえば、「ことばの表出」では「話す・書く」、「ことばの理解」では「聞く・読む」というそれぞれの側面があります。
現実の場面では、4つの側面がどのように障害され、日常生活に影響を与えているかについての十分な評価が必要です。

多くの場合は、周囲のコミュニケーションのとり方を変えることで状況が変わります。
そのあたりをどう体感していただくかを考えました。



○○を伝えよう

<手続き>・・・2人から可能。

1:ペアを作り、失語症役(A)と聞き役(B)に分かれます。
2:Aに「○○(動物など)を相手に伝えてください。ただし、○○および○○の仲間の名前(他の動物)は言わず、単語(名詞でも動詞でも)だけで話してください。」と教示します。
3:Aは、制限された言葉の範囲でBに伝えます。Bからは、自由に質問してもらってかまいません。
4:AとBが説明と質問を繰返しながら、答えを導きます。
5:制限の方法としては、上記のカテゴリー制限のほかに「子音禁止」などもあります。例:「傘」→「ああ」。「雨が降る」→「あえあうう」など。

<解説>

失語症と言っても、すべての言葉が失われているわけではありません。
その証拠に、一緒に言えば言える、時々言えることもある、ということは良くあります。

ここでは言葉を一部(カテゴリー、助詞、母音のみなど)制限しました。
話し手には、その不自由さを体感してもらいます。
聞き手には、どのような質問が有効なのか? どのタイミングで質問をするのがいいのか? を体感してもらいます。
余裕のある場合、目的とする言葉を抽象的なものや文章にすることで、難易度を上げることができます。


1年目で、失語症の方を担当したことのないPT2人で実験しました。
「犬」で行いましたが、5分かけても「動物?」までの到達でした。
話が進まない理由として、聞き手の質問が、「なに?」「どんなの?」というのが多いために、話し手が答えにつまることにあります。
そこで質問の仕方について、聞き手に3つのアドバイスをしました。
  ・「なに?」「どこ?」などのWh-Questionは行わない
  ・質問は「はい・いいえ」で答える、または3つ以内の選択肢で答えられるようにする
  ・物の名前のこだわらず、最初は(大きさ)や(食べ物)などの特徴を聞きだす
単語を変えて(「カブトムシ」)再び行ったところ、1分ほどで正答にたどり着きました。

上の3つのアドバイスは、失語症の方とのコミュニケーションの基本だと思いますが、十分納得してもらえたようです。


失語症1と同様に、介護スタッフの講習会で実施しました。
初めは「木曜日」という言葉を伝えてもらいました。
成功率は3/14。たったの1単語ですが、2分半の時間で約2割のペアしかできませんでした。
次に、PTと同じアドバイスを聞き手に伝えました。
その結果は、12/14。若干の練習効果があるとはいえ、見事な成績の改善と思われます。
ちなみに、成功しなかったペアの談話です。
失語症役:「もどかしい」  聞き手役:「分かってあげられないけど、どうしていいかも分からない」
失語症者やその家族の訴えにも通じるものがあると思います。


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