STの行う業務の中で「嚥下」の比率は年々高まってきています。
ただし、嚥下に関する理論や訓練法も次々と新しいものが出てきており、私が学生だった頃に比べるとずいぶん変わったように思います。
教科書にあるような系統的な訓練方法などについてはここで述べるまでもないと思うので、その数あるアプローチの中から気になったものをピックアップし、紹介します。
誤って解釈している部分などあれば、ご指摘いただければと思います。本ページでは、「頭部挙上訓練」と呼ばれている頚部の筋群に対するアプローチについて紹介します。テキストからの抜粋と、講習会で教わった方法について載せています。
「頭部挙上訓練2」の方では、自分なりに見つけた方法を紹介しています。
合わせてご覧いただければ幸いです。
<作用機序・意義>
舌骨上筋群、喉頭挙上筋群の筋力強化を行い、喉頭の前上方運動を改善して輪状咽頭筋(受動的に)を開きやすくする。
<対象・適応>
輪状咽頭嚥下障害、球麻痺、一般高齢者
<方法>
仰臥位で肩を床につけたまま、頭だけを足の指が見えるまで挙上する。「1分間持続的に実施した後、1分間の休憩」を3回繰り返し、それを30回行う。それを1クールとして一日3クール行い、6週間継続する。
しかし、過日行われた嚥下の講習会の中でこの訓練方法が紹介され、次のような方法が紹介されていました。
また行った結果、非常に効果的な方を経験したので、成書や講師の先生にはなんの断りもないままに、勝手に紹介させていただきます(クレームつくようなら、削除します)。
同じような解釈で、この訓練法を見送っていた方も多いと思うので、何かの参考になれば幸いです。
ちなみに首を挙げるだけなら、手を使わなくても枕で代用できそうな気もしないでしょうか。
そこで助手さんに試してみた時の感想です。
「やっぱり手の方がきついです。なんか枕だと安定しちゃって、後ろにもたれるような感じであんまり疲れないですね。手の方が自分で支えなきゃって無意識に思って力が入ります。」とのことでした。
実際に下記の患者様で行っても、表情も余裕で本人の感想も「こっちの方が楽」だそうです。
やはり手を用いるほうが、訓練効果は高いようです。
この訓練法に関して以下のような見解もあります。その他、見解あれば教えてください。
・PTの方からのコメントです。「肩甲舌骨筋(肩甲骨と舌骨を結ぶ細い筋。詳しくは解剖図など参照してください)を鍛えることにつながるのではないだろうか。そう考えると、座位などをとることができない方の頚部へのアプローチにつなげられるかも」とのことでした。
実際のケースを2例挙げます。
方法としては、30秒から1分間(本人の状態にあわせ)の頭部挙上を5回〜10回程度行っています。
どちらのケースでも、胸鎖乳突筋の緊張が訓練中に上がってくるのが分かり、7回過ぎくらいから嚥下時の喉頭挙上が視覚的に明らかに改善(スピードと範囲)します。
実施する場合の注意としては、ベッドの高さが変えられない場合には中腰の姿勢となり、訓練者の腰に負担が結構来ます・・・。PT室のプラットホーム上などで行うのが、理想的でしょうか。
Case:1 気管切開(カフ内圧自動調整機能つきカニューレ、人工呼吸器は不使用)
直接訓練では不顕性誤嚥が認められ、最終的にも経口摂取にはいたりませんでした。
しかし、1週間後には安静時にも分かるほど頚部の筋緊張は上がっており、喉頭挙上のスピードや範囲の改善が観察されました。痰量の減少も認められ、カフの空気を抜くことで、発話によるコミュニケーションを可能とすることができました。
この件に関し、頚部の屈曲によって気切部周囲、気管内の肉芽形成を起こすのではないか、との指摘を頂きました。
ご指摘いただいたとおり、角度やカニューレのタイプ、訓練頻度など、訓練状況によってその危険性は大いにあると思います。そのうえで実施した根拠は次の通りです。
・気管カニューレの先端部が頚部の運動で気管壁を刺激する可能性はあります。しかしカフを膨らませることで、カニューレ先端部は固定され、気管壁に直接触れることは避けられると考えた。
・またカフによる刺激については、ランツシステム(カフ内圧自動調整機能)カニューレであり、気管への刺激が少ない。
・頚部の挙上角度は30度程度で、仰臥位以上の伸展も行っていません。また回数も現在は1分間X5〜7回で終了し、上記の頭部挙上訓練の手技よりも、軽めに実施しています。
これらについて、医師に確認・了解のうえで行い、肉芽の形成は認められませんでした。
リスクに関していくつか問い合わせた結果、意見として次のようなものをいただきました。
・カニューレは、体内に留置されると体温によって柔軟になる塩ビを用い、ランツシステムは常にカフ内圧を30cmH2O前後に保てるようにしている。ただし、肉芽形成の可能性は否定できない。
・人工呼吸器につないでいるならば、その管の扱い方(本ページのケースは気切だけなので、詳細は略)。
・頚部の動きに伴い主気管支を刺激するので、対応としてカニューレタイプを短いものや柔らかいものにする。
・頚部の屈曲、伸展がカニューレを気管前壁に当てて肉芽を形成、気管腕頭動脈瘻が起こって大出血を起こす可能性。対応として、肉芽の確認、カニューレと気管の位置の透視確認の上で治療に細心の注意を払う必要性。
この他、見解をお持ちの方がいれば、ぜひ教えていただきたいと思います。
Case:2 球麻痺
喉頭挙上の範囲やスピードにはあまり問題がなく、嚥下反射の惹起の遅延が顕著に認められ、球麻痺の典型例と思われました。
喉頭挙上筋群を改善することで、嚥下動作がスムーズに流れることが期待できると思われたので、当訓練を入院時より開始しました。
1週間ほどの継続で嚥下反射の改善が認められ、VF検査実施時も水分以外の誤嚥が認められなかったため、刻み食(トロミつき)にて3食経口摂取を開始。その後も訓練を継続し、トロミのない水分に対する嚥下にも改善が見られ始めました。